7.18.2013

狂気とは何か

 人が人を殺める.
 現代の一般的な社会観からすれば、許されざることだ.
人類の歴史上、宗教儀式や慣習の中で"社会合意として"人が人を殺める文化や文明があったことは事実ではあるけれど、我々が知る社会においては許容しがたいものとして捉えられている.
 そのような殺人行為を、国という単位で世界中で行っていた時代がある. 遠い記憶になりつつある先の世界大戦の時代だ.

 第一次世界大戦では2000万人以上、第二次世界大戦では実に6000万人以上の人が命を奪われた. 国を挙げて敵である”人”を全力で殺戮する. そんな狂気が社会を、世界を覆っていた時代だ.
 狂気. その一言では言い表せないほど、人の心は暗く、難しく、恐ろしい変化する.

 そんな世界大戦の時代、その狂気の時代末期に行われた特攻作戦については文献を読んだり、鹿児島の知覧にある知覧特攻平和会館を訪ねたりして識ることが多かったが、満州からソ連軍に向けて飛んだ特攻兵の存在は知らなかった. しかも妻を乗せて.

 「妻と飛んだ特攻兵」という本がある. 豊田正義氏による緻密な取材に基づく特攻兵の記録だ. 
狂気の世界の中で、1人1人の”個”である人がどのように迷い、苦悩し、生き、死んでいったのか. 人は歴史から何を学びとらなければいけないのかということを深く考えさせられる記録だ.
 この本で取り上げられた谷藤徹夫氏(当時22歳)は終戦後の8月19日、後部座席に妻・朝子を乗せ九七式戦闘機でソ連軍戦車部隊に特攻した. 終戦後の満州でなぜ特攻を行ったのか. なぜ軍規を破ってまで妻を乗せて行ったのか.
 彼は特攻の前に辞世を残している.

 「国敗れて山河なし 生きてかひなき生命なら 死して護国の鬼たらむ」

 時は過ぎ去り、過去の戦争と狂気の記憶が消えようとしている.
 歴史から、人の記録から何かを学ばなければ、我々は再び間違いを起こしてしまう.
 世相の奥底に潜む狂気を、再び表に出してはならない.






0 件のコメント:

コメントを投稿